功名が辻
夫婦の夕食
【夫】
今日のビーフシチューはすっごく香ばしい香りが立っているのでその旨を伝えると、妻は「いや、これは単に失敗して焦がしただけだが」と言った。
これをけがの功名ととるか、謙遜ととるか。
それとも妻の料理の腕が無意識を操作したととるか。
もしくは私の味覚がおかしいととるか。
いい香りだと思ったんだけど……。
【妻】
香ばしいと認識した夫さんの脳は「おいしさ」ととらえ、焦がしたと認識した妻の脳は「こげ、苦味」ととらえたわけだな。
他人からいかに絶賛されようと「失敗」の延長線上にあるそれはやはり「失敗」の延長線上にしかおもえない。作り手は過程も食べるのだ。
そこで頭を切り替えて「新しいもの」と捉えることができるのが料理人なのでしょう。料理人への道は遠い。